薔薇の名前

(1986年/フランス・イタリア・西ドイツ/132分)

これはすごい映画を見た。

テーマとしては中世カトリックの異端審問を扱ってるんだけど話としては「重い」どころか、ノリは金田一とかホームズとかに近い。

何しろ登場する人物たちからして「個性的」なんて言葉では全然足りないくらい、モンスターみたいな容貌がぽんぽん登場する。これってCGや特殊メイクなんて使ってないんだろ?そして教会の地下に隠された秘密の通路から入る迷宮図書館。迷路のように張り巡らされた階段で結ばれた無数の小部屋にはカトリック世界で禁書とされた膨大な書物が眠る。塔の中を上へ下へと結ぶ階段が交差する光景はとてつもなくファンタジック。ハリーポッターなんかより絶対面白いぜ。(ハリポタ見たこと無いけど)


フランシスコ会修道士のウィリアム(S.コネリー)と修練士のアドソ(C.スレーター)は北イタリアのあるカトリック修道院に招かれる。1327年のことであった。そこで起きた、黙示録になぞらえた不可解な連続殺人をウィリアムは明晰な頭脳を持って追っていく。名探偵とその助手ですか、って感じ。

ウィリアムの元々の目的はフランシスコ会アヴィニョン教皇庁の論争を調停するためであったが、修道院で起きた殺人事件は異端者の仕業だとして異端審問の流れへとなっていく。そして村の娘の肉欲に抗えず過ちを犯してしまうアドソ。まさかのセクシーシーン。


秘密の図書室には、合理的思考者であるウィリアムにとっては夢のような書物が眠っている。しかし教皇庁の人々にとって、それは決して表に出してはいけないものなんだね。聖書の教えと矛盾する内容、きっと自然科学の書物がたくさん閉じ込められているのだろう。人々が言い知れぬ恐怖からの助けを教会に求めてくるためには、「笑い」は存在してはいけない。そのほうが都合がいいのだ。

権力を持った教会は人々から富を吸い上げるようになり堕落。今度はその権力を守るため、都合の悪い者には異端者のレッテルを張り、異端者には弁解の余地無く拷問を加え、処刑するようになる。そこには何が正しいか追求する姿勢など皆目無い。先に答えがあり、それに合うように理由をでっちあげるのだ。

この映画では宗教が権力を持つことの恐ろしさと言うものをまざまざと描いている。


劇中でぽろっと出てきた次の台詞、思わず書き留めたんだけど、この世界をすごく的確に言い当てた言葉だと思う。
「信仰と狂信の間はわずかでしかない。」